
日本にいた頃は毎年東京湾の花火を見に行っていた。
私にとって花火とは、きれいとか楽しいとかいうものではなく、神秘体験というべきものだ。
花火を見ているとまるで空から呼ばれているような気持ちになり、私もそちらへ行きそうな気になり、死とエクスタシーを感じる。
日本では夏にあちこちで開かれる花火大会も、ベルリンでは非常に少ない。あったとしても、比較にならないほど規模が小さい。私は、日本のような大きな花火が見たかった。
そんなとき見かけたのがPyronaleの広告だった。ベルリンのオリンピアシュターディオン(ワールドカップの会場にもなったオリンピック競技場)で開かれる花火コンクール。入場料がかかるけど、お金を払ってでも私は花火が見たかった。
Pyronaleには、9月1日・2日の2日間にわたり6ヵ国の花火会社が参加する。1日はポーランド・中国・ポルトガルがその美とテクニックを競った。
しかし私にとってはコンクールはどちらでもよく、空に吸い込まれそうな大きな花火を見られたということがすべてだった。はじめに花がパッと開いて、それから音がドンと響いて、燃えかすが空からばらばらと落ちてきて......。私は本当に久しぶりに五感で花火を見た。
そしてやっぱり空から呼ばれているような気持ちになり、死を感じ、少し泣いた。