『ドイツのキッチン・ルール』あとがきに代えて

| コメント(9) | トラックバック(0)

tage20120523.jpg

明るいキッチンは、私の家の中の好きな場所

 私はこれまで、自分の本であとがきを書いたことはありません。書くように言われたこともないですし、書きたいとこだわったこともありません。限られたページ数なので、あとがきを載せるよりも、少しでも多くの写真や記事を載せた方がいいと思っているからです。

 でも発売になったばかりの『ドイツのキッチン・ルール』(誠文堂新光社)は、いろいろ悩みながら作ったので、あとがき代わりにここに書いてみたいと思います。ちょっと長くなります。

 私はベルリンに住み、自分なりにこの地での生活を経験しています。当然ながら、いい面だけではありません。驚いたり、憤慨することもたびたびあります。そういう面も含めて、自分が感じた素敵なこと、なおかつリアルなことを伝えたいと思って書いています。

 それは時に難しいこともあります。
 このクボマガでは好きなように書けますが、本や雑誌は仕事です。購読してくださる読者のみなさんがいらっしゃって、初めて成立するものです。
 みなさんに支持していただける内容でなくてはならない、つまり売れるものでなくてはいけない。だって商品なのですから。

 よく言われることですが、「人は自分の見たいものしか見ない」そうですね。これを本や雑誌に当てはめるなら「見たいドイツしか見ない」のかもしれません。

 日本では「ドイツ=合理的、清潔、質実剛健 ドイツ人=勤勉、実直」というイメージが染みついていると思います。それは間違いではないと思います。
 でも私の感覚で言えば、現在60代以上の方々に多く見られる傾向のような気がします。若い世代はまたちょっと違いますし、私の住むベルリンは、ドイツの地方都市とは大きく異なると思います。
 いずれにせよ、一言で説明できるほど単純な世界など、この世にはきっとないですよね。

 私はこれまで、どちらかというと日本ではあまり知られていなかったベルリンの姿を伝えてきたのではないかと思います。
 それは自分がベルリンに来て、これまで日本で抱いていたイメージとは別の魅力を知ったからです。そしてその魅力は、きっと日本でも支持していただけると思いました。

 私が最初に著書『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)を上梓したとき、「ドイツのインテリアってもっと質実剛健だと思ってたけど、ベルリンって意外にそうでもないんだ」というご感想をたくさんいただきました。
 それが、とてもうれしかった。私が感じたベルリンの魅力を、みなさんと分かち合えたと思いました。

 でも、この本を出すまでにはかなり時間がかかりました。おそらく、本の内容が日本で浸透しているドイツのイメージと違ったからだと思います。
「ベルリン」という地名もパリやロンドンに比べて認知度が低いので、タイトルを「ドイツ」にした方がいいのではないかという案もありました。
 でも私が伝えたかったのは「ドイツ」ではなく「ベルリン」だったのです。ありがたいことに、この本は多くの方に読んでいただけて、出版社の方も私も喜ぶことができました。

 そして、今回のテーマは「キッチン」でした。キッチンは私にとって難題でした。私は別段家事が好きなわけではありませんし、料理が趣味でもありません。
 さらに、「キッチン」といえば、そこに来るのは「ベルリン」ではなく「ドイツ」しか考えられない状況でした。「ドイツの家事術」というジャンルが、日本で確立されているからです。
 本書を買ってくださる方々は、清潔で合理的という、イメージ通りのドイツのキッチンを期待しているに違いないと思いました。それは、これまで自分が手がけたことのない世界でした。

 これまで、どちらかというと王道でない世界を伝えてきた自分が、こんなザ・王道とも言えるテーマを手がけられるのだろうか。
 しかも、家事が得意なわけでもない。読者のみなさんが求めている情報を伝えられるのだろうか。

 悩んだ点は、もうひとつありました。環境の違いです。
 ドイツと日本では食生活が異なりますから、使う食器の数やアイテム、調理後の汚れも違います。
 住環境の違いも大きいと思います。日本(といっても私は東京しか知らないので、偏っているのですが)では収納が大きなテーマですが、それはやはりスペースが狭い場合が多いからでしょう。
 ドイツはもう少し広いことが多いし、賃貸住宅でも壁に釘を打ち付けられるので、自由度が格段に高いです。
 だから、そういう風土・環境の結果生まれたやり方を、そのまま日本で真似するのは非常に難しいと私自身が感じていました。

 それよりは、もっと生活哲学というか、ドイツ人の考え方を伝えた方がいいと思いました。
 ドイツ人の暮らしは、とてもゆとりがあると思うのです。本書で取材した方々も、キッチンはきれいなのに、なんだかとてもゆったりしています。
 そういうゆとりをもたらす考え方や、生活のワンシーンを伝えたいと思って書きました。

 みなさんにどう受け取っていただけたか、不安ではあります。でも、もちろんここに書いた私の意向とは関係なく、みなさんはこの『ドイツのキッチン・ルール』をお好きなように読んで、眺めていただければ、それでうれしいです。

 最後になりましたが、私はドイツやベルリンの情報を伝えることで、日本での暮らしがもっとラクに、楽しく、しあわせに感じられるようになればいいと願いながら書いています。

 これは、どんなテーマでも同じです。自分がベルリンに来た理由(詳しくはこちら)が、日本にいるのがしんどくなったからなので、よけいにそう思うのです。なんだかきれい事に聞こえるかもしれませんが、本当にそう思っています。
 
 すっかり長くなってしまいました。ではそろそろこのへんで。

 ベルリンにて 久保田由希

コメント(9)

久保田さんこんにちは。

前回のトウキョウ-ベルリン雑貨店で、自分もGLSに通ってましたと図々しく話掛けさせてもらった者です。

遅ればせながら、新刊購入いたしました。

近所の有隣堂でも平積みにされていたので、すぐに見つけることができました。

私は整理整頓が苦手なので(モノを持ちすぎ)、この本を参考にgemuetlichなキッチンを作っていきたいと思います。


毎日東京の高層ビルでいそいそと働いていますが、最近私の居場所はここではないのではないか・・と思うようになり、いつかベルリンに住めるように構想中です。(まだ構想だけですが)

それまでは、久保田さんの本やブログでベルリンに思いを馳せながら暮らします!

それでは、長文失礼いたしました。

naomiさん、こんにちは。
GLSの話、覚えてますよ!『ドイツのキッチン・ルール』をお買いあげいただき、ありがとうございます。
有隣堂さんで平積みになっていたんだですか。有隣堂さん、ありがとうございます。

日本は魅力的な商品が多いと思いますよ。便利だったり、かわいかったり、マーケティングが上手なんでしょうかね。だから、つい物が増えるのはすごくわかります。
ドイツだと、日本のような気の利いたものは少ないんです。そんなわけで、私自身は非常に物の少ない生活を送っていますが、大した不便はないし、さっぱりした気分で快適だと気がつきました。本当に必要な物って、実はほんの少しなんじゃないかと思います。
物を持つことより、ゆとりのある空間で暮らす方が、自分にとっては快適ですね。ドイツ人も空間を大切にするので、物の数よりも空間が優先なんだと思います。

将来、ベルリン暮らしが実現するといいですね。この街は住みやすいです。
ときどきブログを覗いて、日本でもベルリンを感じてくださいね。

コメントを投稿していただけるみなさまへ

コメント投稿時にコメント欄下の画像文字を入力しますが、ちゃんとした文字を入れているはずなのにエラーになることが多いようです(私の経験)。
その場合、プレビューを押していただくと今度は別の画像文字が出ますので、それを入力すればうまくいきます。
お手数ですが、投稿がうまくいかない際はお試しください。原因はわかりませんが、ちょっと聞いてみます。

こんにちは。

そうですね。
仕事となると、売れる本ということを考えなくてはいけないですし、
読者が持つ「ドイツのキッチン」のイメージもありますしね。

私はドイツで暮らしている時に一番感じたのは、
『時間の流れがゆったりしている』ということでした。
以前にも書きましたが、東京にいると何かに追われている感があるんですよね〜(笑)
同じ24時間なのに、全く感じ方が違う(笑)

ドイツ人のゆとりは、たぶん自分自身の中で哲学がしっかりしている(揺るぎ
ない価値観がある)ということから、きているような。
ドイツと日本では生活環境や習慣が違うので、
本を読んだり、人の話を聞いたりした中で、
『ここは自分が真似出来そう』
『この点はちょっと違うかも』
なんて思考錯誤しながら、自分の生活に取り入れていけばいいんですよね。

北村さん、

そうそう、ドイツ人は自分の中の揺るぎない価値観を持っているんですよね!
それがあれば、いろんな情報や新製品も自分で判断できるし、自分にとっての快適な暮らしが守られると思います。
だからかな、あんまり流行に左右されないですよね、ドイツ人。日本のような目まぐるしい流行もないですし。

東京にいてもドイツのような快適生活を送りたいと思っていますが、これはなかなか難しい。でも、私たちのようにドイツ暮らしを経験した者が、日本でも少しずつその生活哲学を伝えていけたら、少しは変わっていくかもしれませんね。
まずは自分が、心地よく毎日を過ごせるようにしたいです。

久保田さん、深~く考えさせられながら「あとがき」読ませていただきました。

>私はドイツやベルリンの情報を伝えることで、
>日本での暮らしがもっとラクに、楽しく、
>しあわせに感じられるようになればいいと願いながら書いています。

↑この部分、激しく共感です。私もいつもそう思いながらブログ書いてます。

頑張りすぎて疲れている日本人は、もっとラクになってほしい。
もっと(ドイツ人のように?)堂々と休んでいいし、
「何もしないでのんびりする時間」に対して罪悪感や焦りを抱かなくていいんだ、と気づいて欲しいなぁと。
だから私は自分のブログの中で、ドイツ人の「意外といい加減でダメなところ」を
強調して書くのかもしれないです(笑)(←それともまだアンチベルリン!?)

松永さん、こんにちは。

私も、日本人は頑張りすぎていると思います。それに、頑張る方向が違うような気もします。
資源の乏しい国だから、これまで頑張ってきて世界的な企業も生まれたのでしょうが、高度成長期もとっくに終わったし、これからはがむしゃらに頑張ればいいというものでもないと思います。時間じゃなくて、仕事の目的を考え抜かなくてはいけないというか。
頑張るためには、絶対に休息が必要。本当に、この点はドイツ人を見習いたいです。日本人が大手を振って休むようになれば、私も安心して日本に帰れます!
お互いブログでリアルなドイツ人像を伝えていきましょう〜。

こんにちは。

もう、本当に日本人は頑張り過ぎて疲れきってますよ(笑)
負のオーラ出まくりです(笑)
全く余裕無し(笑)

休息は絶対に必要ですよ。ドイツ人のメリハリを日本人は見習ってもらいたいです。

元著名アナリストだった方が書かれた本の中に、
日本人と欧米人の思考過程の違いとそれを支える心理的な基盤の違いについて書いてありました。
『欧米人は二元論的な考え方をする。そのビジョンの元で、「価値」が今では無く「理想の自分」「将来」に置かれる。将来の理想から逆算して今何をすべきか考えられる』
『日本人は、あらゆる世界は「今」で成り立っている。今を起点として、その延長線上に理想があり将来がある』
読んでいて、ふむふむと思ってしまいました。

明日は金曜日です。
Thank God, it's Friday.
日本人の皆さん、仕事はさっさと切り上げて自分の時間を大切にしましょう。

北村さん、こんにちは。
その元アナリストのお言葉、私にも当てはまりますね。私も将来像を全然考えてなくて、今しかないです(笑)自分がフリーのせいもあるんでしょうけど、常に仕事のことばかり考えてて…これじゃあ疲れが取れませんね。
みなさん、メリハリを大切に!週末は休んで疲れを取りましょう。

トラックバック(0)

トラックバックURL: https://www.kubomaga.com/cgi-bin/mt5/mt-tb.cgi/682

2022年11月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      

アーカイブ

メールください
info@kubomaga.com