(*ベルリンのお店やライフスタイルに関しては、在ベルリンガイドの松永さんとの共同ベルリン情報ブログ「おさんぽベルリン」をぜひご覧ください。バリバリ書いてます)
6時間かけてベルリンから北ドイツの端まで来た。灯台を見に。
ドイツに住んでから、自分が好きなものをたくさん発見した。例えばたてもの。特に装飾破風が付いた切妻屋根のギーベルハウスや、木組みの古民家、団地、それに塔。灯台もそう。
Westerheversand(ヴェスターヘーファーザント)の灯台を初めて見たのは、確かドイツ語のテキストでだったと思う。紫がかった空に赤と白の塔がそびえて、その脇には満月が出ていて、とても印象的だった。
漠然と頭の片隅に残って、ときどき思い出しては、いつか見てみたいと思っていた。
9月に入ってからようやく自由な時間が取れるようになり、さあどうしようと考えた。そして思い出した、そうだ、灯台に行くなら今がチャンスじゃないの!
そういうわけで、いま北ドイツにいる。
ホテルの最寄り駅まで何とか着いて、そこからホテルまでは約2km。歩いて行けないことはないけど、荷物があるし、不慣れな場所だし、おまけに頼りにしていたGPSが、電波が遅すぎるせいか機能しない。
田舎の小さな駅だから、やっぱりタクシーもない。しかしいい具合に近くにインフォメーションがあったので、タクシーを呼んでもらう。
外で待っていると、バス停付近にスーツケースを2個抱えたご婦人が立っている。「休暇なの? 何日いるの?」と私に話しかけてきた。
「2泊」
と答えると、「あら、短いのねえ。でも全然ないよりいいわね。私は1週間泊まるの」とご婦人。
話すうちに、そのご婦人も駅から比較的近いホテルへ行くけれども荷物があるのでバスを待っているところだとわかった。でもここは田舎。バスは1時間に1本しか来ない。
その方のホテルは私のホテルの途中にあるので、私がタクシーを待っていることを告げると「じゃあ乗り合いでいいかしら」ということになった。
ほどなくタクシーがやって来て、ご婦人と私が乗車。タクシーの運転手さんには事情を話し、ご婦人のホテルへ寄ってから私の宿へ。私にしてみれば支払う額も若干少なくて済んだようだし、旅の始まりから首尾よくいって気分がいい。幸先いいじゃないか。
ホテルへ到着すると「今日はこれから定休日に入るので従業員はいなくなりますが、電話で常時つながります」とのこと。定休日があるホテルって、初めてだ。おもしろい。チェックインが間に合ってよかった。
ホテルから海辺は目と鼻の先。沿道を歩くと、潮の匂いがしてきた。
私は北ドイツが好き。
冷たい海があって、やっぱり冷たい青い色をした空があって、そこに赤い色の灯台や家が映えている。その景色が好きだ。南国とは違う、冷たい青。日本の朱色とは違う赤。それがいい。
一段高い沿道から下ると、途方もない広さの砂浜が広がっていた。一面まっ白な白い砂。ずいぶんと先の方で、波が光っている。雲の切れ間からは光が幾筋も海に向かって伸びていた。風は穏やかで、時折カモメが鳴いている。
なんて、なんて気持ちがいいんだろう。
海辺に来て、水に浸からないなんて無粋だ。靴を脱ぎ、スリムジーンズの裾を無理やりまくり上げた。水は思ったより生ぬるかった。今年の夏は最後が暑かったものね。
浜辺には同じように靴を片手に歩く人や、犬と遊ぶ人たちがいた。すれ違うとお互いににっこりと微笑み合う。
しばらく浜辺ではしゃぎ、ふと顔を上げると、遙か彼方に赤と白の灯台が立っている。あれは私が明日見に行く灯台じゃないの!
この灯台旅を計画したとき、灯台から徒歩圏で行けるホテルは多少あるものの、そこまで行くには車がないと難しそうだと判明した。だから灯台まで約10km離れていても、最寄り駅まで鉄道とバスで行ける今回の宿を選んだのだ。
まさかこの浜辺から灯台が見えるとは思わなかった。
灯台は遥か彼方にあるけれども、浜辺は見渡す限り広がっていて、そこを歩いて行けば灯台にたどり着けるような気がした。
灯台の前に見えるのは白い浜辺だけ。灯台と私の間を阻むものは何もなかった。一歩一歩進めば、そこに行けるような気がした。地図を見れば、そんなわけはないことがわかるのだけれども。
しばらく灯台を目指して、歩き続けた。どこまで行っても砂浜ばかりが続いている。でも、そろそろ夕暮れ。帰らないと。
「明日がある」と言い聞かせて、元来た方へと引き返す。何回も振り返ると、そのたびに灯台は変わらずにそこにいた。
明日ね、また明日。
旅の2日目はこちら→灯台に、会いに来た・2日目
Twitter:https://twitter.com/kubomaga
Facebook:https://www.facebook.com/yuki.kubota.900
Instagram:https://www.instagram.com/kubomaga/