建築関係の本などでよく、日本の伝統的な建築物は縁側に見られるように内と外の境界線が曖昧であり、北部ヨーロッパの建築では壁によって内と外が隔てられている、という記述を見る。
ベルリンに住んでいると、それがすごく実感できる。この壁の厚さを見ていると、建物が人間を守っていると感じる。
でも、ベルリンでも見つけたんだ、内と外の曖昧な境界線を。そして日本では、その境界線は非常に厳しく区分けされていることを。
それは足元。日本では、土足とそうでない部分は厳密に区別されている。玄関では靴を脱ぎ、土足では一歩たりとも室内には上がらない。そういえば中学校では「犬走り」なんていうものもあった。
ドイツ人は、家では室内履きを履いている人が多い。でも家に玄関スペースはないから、どこで靴を脱ぎ室内履きに履き替えるかは、人それぞれ。
それに家の人は室内履きでも、客人は通常は靴を履いたまま。一つ部屋の中で、片や室内履き(場合によっては靴下や素足)、片や靴という光景になる。
客人は靴を履いたままで、当然トイレにも行く。トイレとバスルームは一緒のことが多いから、靴のままでバスマットの上を歩く人もいる。そこは素足で立つところなのに、と私はヒヤヒヤするけど、みんなあまり気にしていない様子。
自分は日本人の感覚なので、撮影などで人の家に上がる場合は、靴を脱ぐべきかどうか聞いている。「脱がなくていいよ」という答えが多いけど、家の人が室内履きを履いているようなら、自分も靴を脱ぐことにしている。雨や雪の日なら、なおさらそう。
この前うかがったお宅では、ちょっとした衝撃を受けた。家の人は室内履きで、私はいつものように靴下状態。話の成り行きで、同じアパートの別のフロアに行くことになった。
当然私は靴を履こうとした。同じアパート内とはいえ、家の外に出るわけだから。
そうしたら「靴を履く必要はないですよ、同じ建物内だから」と言われたのだ。
え、でも玄関出たら外と同じ......。そりゃあ、アパートの階段は建物の中にあるから風雨にはさらされてないけど、みんなそこは土足で歩いているわけだし。
と思ったものの、家の人は室内履きでさっさと玄関を出て階段へ。えーっ、と思いながらも私も階段へ。その足元は靴下。
まあ、こっちの家に畳はないからね。畳があればその上に座ったり寝転んだりするわけだから、感覚も違ってくるかもしれない。
もしそれでも曖昧な足元のままだとしたら......大らかな気持ちになれるかも?